VACANCES
初出:物置/2020-08-29
現パロイレブン君とカミュが南国デートする話。短めの4話構成の予定。


「ねぇねぇカミュ!」
「ん?」
「カミュは、夏休みとかあるの?」
「あるぜ?」
「ふーん。」
「何処か遊びに行くか?バイク出すぜ?」

「あのね、お誘いしたいところがあるんだ。」





1日目 



カミュは現在、白い砂浜の上に立って、崖の上の別荘を見上げている。

ここは恋人の父親であるアーウィンが所有しているらしい南の島である。
島ごとユグノア財閥私有地だ。
そんな島にある唯一のユグノア資本のリゾートホテルは、バケーション時期なら稼働率99%、1年前から予約をしなければいけない程の人気だという。

そんなホテルの裏にあるこの屋敷は、本来、ユグノア一家がバカンスを過ごすための屋敷だ。

その屋敷で3泊4日、恋人のイレブンと2人きりで過ごすことになったのだ。

「はぁ…長旅だったね。」
「クルーザーとかマジで楽しかったぜ?」
「ほんとに?…ぼくは酔ったよ…」

カミュに酔う暇など無かった。
豪華クルーザーの旅なんか初めてで大興奮だったし、
リゾートホテルの従業員だという操縦士と船舶談義に花を咲かせ、
何処までも続く海と、遠くに見えるイルカの群れに心を躍らせるのに忙しかった。

船から降りれば、
今度は白い砂浜、美しい青い海が広がっており、そして最高に可愛いイレブンがいる。
日焼け防止のためか、つばの広いストローハットなど被っている。

イレブンと過ごす初めての夏で、初めての旅行である。
普段から半同棲状態とはいえ、やはりそれとは違う特別感がある。

最高の4日間になるのは、約束されたようなものだった。


イレブンに屋敷まで案内されながら、カミュは改めて礼を述べる。

「誘ってくれてありがとな。」
「カミュ以外に誘いたい人も居ないよ。…君と来たかった。」
「ほんとか?どうせアレ目当てなんだろ?」
「ち、ちがうよ!確かにサーフィンはしたかったけど…。」

どうやら今回イレブンがカミュをこの旅行に誘った大きな理由はそれらしい。

「人生初サーフィンだもんな。」
「うん!」
「けど、無理しない程度だからな。」

どうやら前々からやってみたかったらしいのだが、
習いに行くのも不安だったらしく、誰かに教えて貰える機会を伺っていたらしい。

「サーフボード買ったしな。…ちゃんと水着も買って来ただろうな?」
「勿論だよ!」

イレブンの水着…!
この旅の大事な楽しみの一つである。
サーフボードを一緒に買いに行った際、水着は別に買うから、といいはって買わなかったのだ。

「へ、変なのじゃないからね!」
「さぁどうだか。イレブンのセンスは結構怪しいからな。」
「もう!どういう意味!?」
「いや、だってお前、この間の私服も大概」
「わーわー!それはだめ!思い出さない!」

何時ものようにじゃれ合いながら屋敷へたどり着く。
玄関には先に送っていた荷物が届いていた。

億劫にならない内に、荷物を寝室へ運び入れた。
部屋は山ほどあるのだが、イレブンがおすすめという部屋を寝室とした。

大理石のユグノア邸宅とは異なり、木調の南の島のコテージ風の屋敷。
ラタンで作られている調度品。
ベッドのシーツや天蓋もエスニックな柄で、完全にリゾートだ。

「つーか、ベッドでけぇ!」
「2人で寝ても、十分広いね?」

珍しく含んだ物言いをするので、思わず顔を見ると、
少し恥ずかしそうに、でも満更でもないといった目をしていた。
流石にお前もガードゆるそうだな、と目で訴えると
その視線から逃げる様に、イレブンが窓際に立ってカーテンを開けてくれた。

目に飛び込んできたのは、青く美しい空、そして美しい海。先ほど来た白い砂浜。
その風景に、カミュは言葉を失った。

「すげぇ…」
「カミュ海好きだもんね。」
「ああ…」

イレブンは窓を開ける。
優しい海風が入り、イレブンの柔らかい髪がふわりとした。

見える景色と相まって、それはとても美しかった。

「イレブン。」
「なに?」

振り向いてくれるので、歩み寄ってそっとキスをする。
少し呆れたような目をしながら、イレブンは応じてくれた。
背中に腕を回し優しく撫で、そっとベッドに押し倒した。

「だめ。サーフィン!」
「解ってる。いきなりしねぇって。今はまだ、な。」

水色の目が嬉しそうに笑っている。

「よかった、カミュ喜んでくれてる。」
「当たり前だろ?そもそもお前がこうやって旅行に誘ってくれたってだけで嬉しいのに。」
「カミュの背中にしがみ付いてバイクでお出かけも楽しそうだったんだけどね。」
「それはまた次の機会な。」
「うん!」

2人は旅の疲れを取るように、暫しそこで横になっていた。
恋人の腕に抱かれながら、心地よい海風を感じて、それだけでここへ着た甲斐があると実感する。

「さて、準備して、海出ようぜ!」
「うん!」

このままずっと、ダラダラと話ながら夜になってしまいそうだったので、行動に出る。
夕飯の支度をはじめ、色々と準備をしてから、各々水着に着替え、玄関に集合することになった。


カミュは適当に日焼け止めを塗り、サーフパンツを身に着けさっさと玄関へ向かう。
男なんか多少焼けた方が絵になるというものだ、と思っているが、イレブンは別だ。
イレブンは絶対に焼かせてなるものか。色白なので、赤くなるのは目に見えている。
30分に一回は塗りなおさねば、というか背中とか多分塗れてないので、まずは砂浜にレジャーシートを敷き、イレブンをうつ伏せにして背中に日焼け止めを塗るところから始めることになるのか、そうか…なんてことを考えていると、階段の上から明るい声が聞こえた。

「お待たせ!」

現れたイレブンは、半袖に膝丈のダークグレーのウェットスーツ姿だった。

予想以上にガードのしっかりしたそれに、がっかりした気持ちが無かったわけではないが、
ぴったりしたウェットスーツは線の細さを際立たせていて、白い手足が眩しい。

「お、マトモなの着てるじゃねぇか。」
「でしょ?僕のセンス、見直してよね。」
「そいつはどうだか。日焼け止めちゃんと塗って来たか?」
「うん。」

まぁその姿なら背中が焼けることはないだろう。日焼け止め塗るプレイはナシか。
2人は荷物を持って海岸に出た。
パラソルを刺し、レジャーシートを広げる。

「荷物の心配しないでいいって楽だよな。」
「普段はどうしてるの?」
「誰かが待っててくれりゃいいけどよ、1人で海行くとマジで大変だぜ?財布砂浜に埋めたり。」
「ええ!?」
「海でなくすとやばいだろ?」
「埋めて大丈夫なの?」
「案外な。」

下らない話をしながら、カミュは海を見つめる。
良い波だ。
波の奪い合いもなく、ゆっくりと楽しめるなんて最高だし、イレブンが練習するにももってこいだろう。

「お前、泳げるのか?」
「泳げるよ!」
「あー、じゃあ、パドリングが出来るようになりゃ最終日には立てるんじゃねぇか?」
「うん!お願いします!」
「何かあったらやばいから、そこは厳しくするからな。」
「うん。言うこと聞く。」

準備運動をし、体を慣らして海に入る。

イレブンはまるで、スクールにでも来たかのようにカミュの言うことを聞き、真面目に取り組んでいる。
体が固いのでどうかと思っていたが、運動神経そのものは結構良いらしく、初心者がひっかかるパドリングも出来る様になった。

「中々良い筋してんな。」
「ほんと?カミュの教え方が良いからじゃない?けど、凄い疲れるね…。」
「浜上がって一息つくか。足つったりしてもヤバいしな。日焼け止めも塗りなおせよ?」

ボードを持って浜に上がり、転がるようにパラソルの下に潜り込む。

「はぁ、疲れた。」
「そりゃなぁ。お前初めてづくしだし、俺も久しぶりだ。」
「カミュは前からやってたの?」
「まあな。海沿い暮らしの楽しみの一つだな。」
「ふーん…そういえば、カミュのボード短いね。身長低いから?」
「おい。つーかそんなに低くねぇし!これは上級者向けなんだよ。」
「そうなんだ。」

イレブンは少し恥ずかしそうに呟いた。

「カミュが波乗ってるとこ見たいなぁ。」

人のことを背が低いだの、なんだの言ってくるこの恋人に、
多少カッコイイところを見せてやらねば。

「いいぜ?」
「ほんとに?」

カミュは水を飲んで一息ついてから、ボードを手に海に入る。

少しばかり沖に出て、ボードに座って波を待つ。
良い波が来た。
まるで「見せ場作ってやるから頑張れよ!」と言われている気分にさえなる。
逃す手はない。
パドリングで加速しながらイレブンを見る。こちらを見ている。
あとは波に乗るだけ。

「ちゃんと、見てろよ…!」

カミュは華麗にチューブを通り抜けた。

そのまま波に乗るように浜へ戻ると、イレブンの喝采が待っていた。
カミュはもう、ドヤ顔である。

「すごい!カミュ、かっこいい!」
「惚れたか?」
「うん。…けど、それは前から。」

恥ずかしそうに笑っているのを見て、カミュは思わず口元を隠した。

「やべぇ、可愛すぎてニヤニヤする。」
「写真撮りたかったぁ。」
「もっかい乗ってやるから。」
「うん!」

余りにもイレブンが素直に喜んでくれるので、カミュは波にも調子にも乗りまくった。

その後、イレブンが触発されたのか再び練習をしたいというので付き合った。
日が傾いてきたときには、カミュも大変お疲れになっていた。

「流石に疲れたな…。」
「風邪ひいちゃうし、早くもどろ?」

荷物をまとめて、屋敷に戻る。
まずはさっさとシャワーを浴びる。髪がひどい。
元々そんなに手入れしているわけではないが、恋人の前だ、気は使いたい。
一応、いつもよりも丁寧に洗ってみるが、限界だ。
イレブンのあの美しい髪も、流石に潮風・海水でごわごわになっているのだろうかと、
カミュはほどほどに手入れをして風呂を出た。

もう一つのシャワーから出て来たイレブンの髪は何時ものように美しかった。

「…何かしたのか?」
「え?別に?シャンプーしただけ。」
「どんな魔法だ…。」
「?」
「いや、なんでもない。…もっときっちり手入れすりゃよかった。」

海に入る前に仕込んでおいたお蔭で、夕飯は時間を掛けずに食べられた。
食事をしながらもイレブンはサーフィンのことばかり口にしていた。
そんなに嬉しかったんだな、とカミュも嬉しくなる。

食事を終え、2人は寝室へ向かう。
ベッドの上に座り込み、海の音を聞きながら恋人と寄り添う。

「カミュは海育ちなんでしょ?波の音聞きながら育ったの?」
「まぁ…そうだな。けど、こんなに雰囲気のある海じゃなかったからな…。」

海にはいい思い出も、嫌な思い出も詰まっている。
けれど、海を嫌いになることなどなかった。
時化があるのと同じように、凪もやってくる。
どんなに苦しい時期があっても、穏やかな時がやってくるはず。そう学んだ。

「こうやって大事なお前と一緒に波の音聞きながら寝るって…いいよな。」
「うん。…カミュと一緒で、幸せだよ。」

どちらかともなく、そっとキスをする。

疲労感から、瞼が重くなる。
2人はベッドの上で寄り添い、そのまますっかり眠りに落ちて行った。


幸せな一日が終わった。



終わってしまった。


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