すれ違い、姫始め
初出:べったー/2018-01-03



【姫始め】
その年になって、初めて男女などが秘め事をすること
(ロトゼタシア大辞典…イレブンによる要約)



「…!!!」

カミュに、「姫始めは何時にする?」と茶化されて、それが何かも解らずに悔しかったので、珍しく辞書など手に取ってみたところ、案の定何時もの単語が出て来た。

「こんなの、はっきり言えばいいのに…。」

はっきり言われたら言われたで、動揺するに決まっているのだが。

しかも、この間「プリンセスローブ」とか何とか言ってたし、またあの変態な恋人は、人に女装をさせた上、おねだりしてみろ、とか言いだすんだろう。

「(…どうして…はぁ。)」

ため息が止められない。
何故こんなにも振り回されているんだろう。
何故そんなにしたいのだろうか。

嫌ではなかったが、イマイチ納得しきれていない。
イく時は実際に気持ちがいいのだけれど、イっていれば愛されていると思えるかと言えばそうでもない。
どちらかと言えば、その前のキスしている時間や、抱きしめあって眠っている時間の方がよほど幸せだ。

「(…もしかして、愛情不足?)」

イレブンが満足しているのは、もしかするとカミュからたっぷり愛情を注がれているからかもしれない。だから体の関係をそこまで求めずに済んでいて、十分満たされているのかもしれない。
そうすると、求めまくってくるカミュは、イレブンの愛情に飢えているということになる。

「(こんなに、好きなのに…。)」

元々不器用だ。感情を表に出すのもそんなに得意な方ではないし、感情を伝えるのはもっと苦手だ。今までは周りの人が汲み取ってくれていたし、カミュだって汲んでくれる。

「(けど…それとは違うよね。)」

カミュが自分を愛してくれていることは知っている。視線や指先からたくさんの愛を感じる。キスなんかしなくたって解る。
けれど、それでも時々愛していると囁かれたい。何度言われても胸がきゅんと苦しくなって、気持ちが良くて、大好きという言葉が自然と溢れてくるのだから。

「(カミュもやっぱり言って欲しいのかな。)」

自分がされて嬉しいことは、お返しすべきじゃないか。

イレブンは決めた。

姫始めとやらが、近い内に来るのであれば、その時にカミュへ全力で愛を伝えようと。そして彼を愛情で満たして、抱きしめあうだけで満足して貰えるのかどうか、試みようと。

けれど、どうすればいいのだろう。
カミュが普段自分にしてくれることを思い出す。
思い出しただけで顔から火が出そうだ。
こんなこと出来るわけがない。けど。

(頑張ってみよう…。)」

イレブンは色々と考えを巡らせた。








新年から2日ほど経った。
カミュは挨拶を兼ねて、イシの村のイレブンの家に訪れた。
「今年もよろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくね。今年もイレブンを構ってあげてね。」
「こちらこそ。」

社交辞令的な挨拶をする。
去年、「来年こそお前を攫いに行く」と宣言したカミュとしては、よろしくに色々な意味が込められている。


挨拶が終わるのを待ち遠しそうにしていらイレブンは、早速カミュの腕を引っ張った。
「お母さん、ちょっと遊びに行ってくるね!」
「気を付けてね。カミュ君、よろしくね。」
「じゃあちょっとお借りします。」

とりあえず村の外まで出る。

「どうした、珍しいじゃねぇか。」
「だって、新年初めてカミュと会えたから、ちょっとテンション高いの。」
「へえ、お前が?」
「そうだよ。…へん?」
「いや。で、どこ行く?もしお前に希望がなけりゃ、ホムラとかどうだ?」
「いいよ、カミュと一緒なら。」

カミュは心の中で必死に考えた。
どうしたというのか、この奥手で碌に好きとも言えない恋人がこんなに積極的な理由はなんだ。
決して嫌ではないのだが、イレブンが無理をするときは何か隠している時だ。それも彼自身の為ではないことが多い。
勘ぐりつつ、イレブンがルーラを唱えるのを眺めていた。


ホムラの里は、他の国とは少し文化が違う。

プチャラオ村とは違う、真ん丸の提灯がいっぱい吊るされていて、何かの炊き出しをしているらしい。
小さな小屋的なものが広場を囲うように並んでいて、それぞれ食べ物を売っているようだ。どこからも美味しそうな匂いがする。

「何か不思議な雰囲気だね。食べ物ばっかり!」
イレブンが楽しそうに呟く隣で、カミュはお前の方がよほど不思議だ、と心の中で叫ぶ。
なぜなら今、イレブンが腕など組んでくるからだ。

恋人同士で腕を組むなんて、どこかミーハーな部分があるカミュからすると願ってもないことだった。申し訳ないことに、自分の方が背が低いので、イマイチ腕を組みづらそうにするものだから、腕を組んでほしいとは言えなかったというのもある。

しかし今は、腕をきゅっと掴んで、体をぎゅっと寄せてくれている。どういうことだ。最高なんだけれど、理由がわからず素直に喜べない。

炊き出しの列を眺めていると、いつかの蒸し風呂の主人に見つかった。
「おや、お二人とも。」
「ああ、久しぶりだなおっさん。景気はどうだ?」
「勇者御用達って看板を付けたら、もう評判が広まっちまって、大忙しですよ!」
「良かったですね!」
「感謝感謝です!そうだ、雑煮でも食べて行ってくださいよ!」

そう言って、彼は炊き出しへ行き、御椀を二つ持って戻ってきた。湯気が出ていて旨そうな匂いがする。
「ホムラでは新年になると食べるんですよ、さあどうぞ。」
「ありがとうございます!」

礼をいって別れてから、適当に座れそうなところを見つけて並んで座る。
「何か思わぬところでメシにありついたな。」
「そうだね。美味しそう。前に来たときはこんなのなかったもんね。新年しか食べないのかな?」
「かもな。さめねぇ内に食っちまおうぜ。」
「うん。いただきます。」

雑煮とやらの感想は、一言、美味い。それだけだ。美味かった。
そもそもそれどころじゃなかった。
「カミュ、」
「ん?」
「はい、あーん?」
具をはい、と差し出される。
「??」
「食べない?」
「…。」

無茶苦茶恥ずかしい。
けれど、本当ならイレブンの方が恥ずかしがりそうなものだ。それを何故?本当に何があったんだろうか。
とはいえ、恥ずかしがっているのをきっと必死に隠しているであろうイレブンのためにも、恥ずかしさを隠して、パクリと食べた。

「美味しい?」
「んまい。」

えへへ、と笑う、その笑みには恥ずかしさも混ざっているようで、それはもう大変、新年早々大変可愛らしいんだけれども。

「なぁ。」
「何?」
雑煮のスープまでしっかり飲み干してから、カミュはイレブンに声を掛けようとした。どうして今日はこんなに積極的なのかを問うために。しかし、

「あら、観光の方!これからシシマイがあるのよ?」
突然村の女性に声を掛けられて驚いて振り向いた。
「シシマイ?」
「ライオンの被り物をして踊るのよ。良かったら見て行ってね。」
「はい。」

食べ終わった御椀を戻してから2人はそのシシマイとやらを見た。それから屋台で売っている小さなカステラを食べ、たこ焼きを食べ、チョコレートのかかったバナナを食べようとしたイレブンを何故か止めたりして、2人で新年のホムラの里デートを堪能した。

その間、イレブンがカミュの腕を離すことはほとんどなかった。

そんなことをしているとすぐに日が傾いてくる。火山の近くとはいえ、風が冷たくなってきて、どちらが言うとでもなく、当然のように宿屋へ向かった。

「竹とかいっぱいで良いよね。」
ホムラの里の宿は少し趣が違う。
「何かちょっとリゾート感あるよな。すげぇ内陸なのに。」
「そうだね。」

イレブンが自然とカミュの隣に座る。

そこでやっとカミュはイレブンに聞くことが出来た。
「なぁ、今日やっぱりどうした?」
「どうしたって?」
「腕組んだり、手つないでくれたり、」
「だって、カミュと一緒に居られて嬉しかったから。」

イレブンがぐっと顔を覗き込むように寄せてくる。
相変わらずとんでもなく可愛い。
しかもちょっと悪戯っ子のように笑っている。
イシの村の人曰く、こう見えて子供の頃は悪戯っ子だったらしい。まぁこの可愛い笑顔でいたずらされるんならいくらでもされるだろ。

「何考えてるの?」
「ん?可愛いなって。」
「何時もそういってごまかすよね。」
「誤魔化しちゃねぇよ。」
「そんなことばっかりいってるとこうしちゃうよ?」

イレブンから唇にキスをされる。
それもねっとりと絡むキスだ。珍しい。
軽く脳みそが溶ける。

唇が離れると、火照りつつもちょっと得意げな顔がある。

「珍しいな。」
「そんなことないよ。」
「そうか?じゃ、もっかいしてくれよ。」
「いいよ?」

躊躇うことなくもう一度してくれる。
今度は唇を離さないまま、ゆっくりとベッドへ横になる。
「ッ…。」
小さく声が漏れて、目を瞑っていたイレブンは少しだけ目を開けて照れて、また目を瞑り、舌を感じる。

「んっ…。」
唇を離すと、カミュはイレブンに覆いかぶされるように見つめられる。それから何も言わずにカミュの胸にゆっくりと頭を横たえた。
美しい髪を撫でると最初ピクリとしたものの、その後は大人しくしている。
あのイレブンが甘えている。

カミュは幸せを感じつつも猛烈な違和感を覚える。
あんなに甘えるのがヘタで、感情を口にするのが苦手なイレブンが、突然年が新しくなったというだけで克服できるとは思えない。
かといってそそのかされているようでもないし、何があったのか。

首を起して様子を伺うと、視線を感じたのか顔を剥けるので、自分の唇を指してねだってみる。イレブンは察してもぞもぞと顔を寄せキスをしてくれるので、キスをしつつ転がすように上をとった。
やっぱり見下ろす方が好みだった。

「なあイレブン、そろそろ種明かししてくれよ。」
「たね?明かす種はないよ?」
「本当に?」
「うん。…僕は、前からずっと…君のこと大事だと思ってたから、今年はちゃんとそれを伝えられるようにしようって思ったの。それだけだよ?」

「お前が俺のこと愛してくれてるなんて、十分知ってるぜ?」

そうでなければ、男に体何か差し出したりしないだろう?

「…お前の気持ちは当然嬉しい。行動も嬉しい。けど、前から知ってた。お前が俺を愛してくれてるってのは。それに、俺はお前みたいに…愛され慣れてないんだ。」
「なれる?」
「あー、なんて言えばいいのかわかんねぇんだけどよ。…受け止める側になったことなんかねぇし、大事にされるってことは無くてな。けど、お前は違う。お前は愛され慣れてる。親とか村人とか、仲間たちにだって。だからお前は感情に任せて突っ込む俺を受け止めてくれて、だから俺は気兼ねなく突き進めて…それでいいと思うんだ。」

イレブンがこんなに積極的になった理由は解らない。
けれどカミュにはどうしても無理をしているように思えてならない。
そして、きっとそれは自分のためだとカミュはそう推測していた。


「お前にこうやってはっきり愛情表現をされると、どうしてもそれより上の愛情表現に出たくなるんだ。」
「…。」
「…わかるだろ?」
「…。」
「本当は、今日は…手ださねぇようにって思ってたんだ。今年はお前を攫いに行くって決めてたし、お前に、こいつ体目当てなんじゃねぇの?、って思われるのも嫌だったから、偶にはちゃんと、ちゃんとっていうかわかんねぇけど、心だけで満足しようって思ってたんだぜ?」
「そうなの?」
「ああ。けどな。」

カミュはあえて悪い顔をする。

「お前が可愛い事してくれるから、もう、無理。」

唇に噛みついた。
それはイレブンがしてくれたものとは違う。食らい尽くす為のキスだ。息が苦しいくらいだけれど、指先の神経がチリリとするくらいに官能的だ。

「はぁ、カミュ…。」
「いいだろ?」
「ふふっ…僕の完敗だな…自滅なのかもしれないけど。」
「ん?」

イレブンは体を起こして、カミュを見つめる。その目は悪戯っ子ではない、とても優しい眼差し。
「種明かしではないよ?だけどね…実は、目論見はあったんだ。…君がしょっちゅう、こういうことをしたがるのは、僕の愛情不足なんじゃないかって。君に僕がどれだけ君を大事に思ってるのか伝わってないんじゃないかって。」
「なるほどな。何か納得したぜ。」
「君が姫始めとか言いだすからだよ。」

カミュは頭を掻くほかない。案の定この恋人は自分の為に無理をしていたのだから。

「体目当てってわけじゃねぇし、別にお前を追い詰めるわけじゃ」
「解ってるよ。解ってなかったのは僕だから。」

イレブンは腕を広げる。

「来て、カミュ。いくらでも受け止めてあげる。」

襲いかかるほかない。
カミュは、小さな唇に齧り付いた。









「ッ…。」
すっかり服を脱がし、全身にキスを降らせる。胸や耳や敏感なところを特に念入りに愛撫して、イレブンの体が準備を整えるのを促す。
オイルをたっぷりと使って秘部に指を入れ、ゆっくりとほぐしていく。
「痛いか?」
「大丈夫…あつくて、ドキドキするよ。」
「ああ。」
チュっとキスをしてやり、焦らないようじっくりと解してやる。白い指がカミュの二の腕を掴むと、おおむね準備が整った合図だ。指をゆっくりぬくとイレブンは受け入れる体勢を作る。

「カミュ…。」
「イレブン。」

名前を呼び合い、一度キスをしてやって、すっかり熱を持ったそれをあてがう。
「ゆっくり、おねがい。」
「解ってる。」
ゆっくりと入れる。呻くような声を少し上げて、眉を顰めながらも受け入れてくれる。中の気持ちよさに気持ちが焦るけれど、そこは耐えてじっくりと。
「ッあ…。」

一度奥まで挿しいれて、見つめ合う。謎の感覚だ。
「あつい…。」
「当然だろ?」
イレブンが手を伸ばしてくるのでその手をとり、指を絡める。
どんなに受け入れてくれると言っても、無理はさせてはいけない。
甘やかされたくもない。

「あー…念のため言っておくけどよ、どんなにお前が受け入れてくれるっつても別に、俺だけ気持ちよくなるつもりはねぇからな。」
「大丈夫だよ。解ってるよ。いっしょに、気持ち良くなろうね?」

一度奥を突く。ひゃん、と可愛い声を上げて、照れくさく笑う。
「優しいのして。」
「無理はさせねぇよ。」

カミュはゆっくりとイレブンを抱いた。
良い場所を責めるというよりは、確かめるように擦る。当たるたびに「んうッ」と啼いて笑う。
「やだ、焦らしてるの?」
「あながち間違っちゃいねぇけど、こういうのも嫌いじゃねぇよな?」
「うん…。カミュとなら何でも好きだよ。」

ゆっくりと速さを上げていく。
律動に合わせて息が漏れて、時折はにかんで、じわじわとイレブンを責めていく。
「ッあ…はぁ…カミュ…。」
「良くなってきた?」
「うん…すき…きもちいいよ…ッ」
ぬっぷぬっぷと結合部からオイルが溢れてくる。カミュの先走りが泡立ち、互いがドロドロになっていることを突き付けてくる。

じゅぷじゅぷと卑猥な水音が部屋に満ちて、イレブンの甘い嬌声がそれに混ざる。

どちゅ、どちゅ

「イレブン…そろそろ、イけそうか?」
「あん、かみゅ…もう、いけちゃう…」

少し強めに刺激する。奥と手前のポイントを交互に、擦り合わせるように。
「んあぅッ、かみゅ、イっちゃう…!!」
「ちゃんと、声だせよ?」
「あぁ…あッ…こえ、おさえられないもん…あッ」

カミュはイレブンの腰を、逃がさないようにがっちり捉えて、奥をゴツゴツと攻め上げた。
「ッああ!!!」
ぎゅっと目を瞑り、眉を顰め、シーツを掴んで頭を振る仕草は、どこまでも淫らで、けれどとても美しい。

「イレブンッ…!!」
「かみゅ、イっちゃう、もう、だめ、だめ…イっちゃうッ…!」

肌のぶつかる音。繋がる音。小さな口から洩れる嬌声。
全てに、快感の坂を駆けあがっていく。

責め上げて、ボロボロになってしまいたい。

「かみゅ!かみゅッ!イっちゃう、イっちゃううぅう!!やぁあんッ!!」

カミュはイレブンの膝を抱えてぐっと奥へ突き挿す。
喘ぐ唇に齧り付く。
白い背中が弓なりに反って、体がピタリを重なる。

イレブンの秘部がぐっと締まった。
カミュは、奥へ、熱を放った。
「ッ…はぁはぁ、イレブン…。」
「んッ…」
放たれた熱に体を震わせながらも、カミュを水色の目で捉えて少しだけ笑う。
「おく…あついよ…。」
「お前の中、全然俺のこと離してくれそうにないぜ?」
「ッだって…。」
「お前がどんなに気持ちを態度に出すの苦手つっても、体は本当に素直だよな。もう一発欲しいだろ?」
あえて茶化してやると、イレブンは少し、あの悪戯っ子の顔を見せる。
「一発でいいの?」
本当に敵わない。
「そうだな、そういや、幾らでも受け止めてくれるって言ってたしな。たっぷり、楽しもうぜ?」
「…優しいのにしてね。」
「解ってるって。」

一度ぎゅっと抱きしめあって、キスをする。
そしてまだ熱の冷めない体を重ねた。





目を覚ますと可愛い恋人はすぐ隣で寝ていた。
しょっぱなから無理をさせた。

「無理させないって言ってなかったっけ…?」
「お前が煽るからだろ。」

考えるまでもなかった。

「これって去年と一切変わってないね。」
「…だな。」

気怠そうな恋人の額にキスをしてやりつつ、その腰をさすってやる。
「結局、俺らはこういう形なんじゃねぇか?」
「そんな気がする。…せめて一回減らしてほしいけど。」
「…善処する。」

美しい髪を撫でてやるとくすぐったそうな顔をする。
「結局姫始めしたな。」
「そうだね。まぁ…しないで1年過ぎることはないもんね。」
「だな。」

来年は、どこでどうやって新年を迎えるのか解らないけれど。
来年も同じように傍に居られることを願いながら、

2人は初夢を見るために眠りについた。
同じ夢が見られることを願いながら。




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