【聖夜】サプライズ&クレイモランの宿屋に、昼。
初出:べったー/2017-12-24,25

前半は非エロとして全公開、後半はエロとしてパス公開。
パスワードを前半の文中に隠したやつであります。
分ける必要もないので、一緒に掲載。本当はツイッター連載に連動してたんですけどねー。



静かな聖夜だった。

聖夜そのものどころか、プレゼントすら渡しに行く隙もなく、
何故か当人より妹が不貞腐れている始末。

「お前がしょげてどうすんだよ。」
「何ヘラヘラしてんだよ、完全敗北だからな!」

何と勝負したというのか。

「だから、あいつは家族が何より大事なんだよ。当然だろ。一人息子だし、唯一の血縁者だって見つかったんだし。」
「兄貴はそういうタイプが好みかもしれねぇけど、オレからしたら敗北なんだよ。」

俺達だって、未来では家族になるのに。
小さくそう呟くのが聞こえる。
マヤがそんなにイレブンに執着する理由が解らない。

「何でお前がそんなにこだわるんだ?」
「…。」

すごく懐いている、というわけでもないのに。

「まぁ来年は勝つから安心しろ。そんなことより、こんなとこ居ても悩むだけだぜ?気分転換にどっかいくか?」

カミュがマヤの機嫌を直そうと誘っているところ、トントンと、ドアがノックされた。
この隠れ小屋に誰が来るというのか。魔物の仕業か?それとも吹雪いて何かぶつかっただけだろうか。
カミュがそっと近づくと、鳴き声が聞こえる。

―ワンッワンワンッ―
―しー!ルキ、声が大きいよ。サプライズなんだから。―

丸聞こえだ。

興奮を隠しつつ、カミュは勢いよくドアを開けた。

昨日から探していた姿がそこにあった。

「ハッピーホリディ!カミュ!マヤちゃん!」

イレブンは楽しそうに両手を上げてホリデイのご挨拶をする。それに合わせるかのようにルキがワンワン吠えていた。
2人とも寒いのを懸念してか温かそうなものを身に着けている。

「い、イレブン…!?」
驚きの声を上げたのはマヤだ。
「えへへ、おどろいた?」

可愛い恋人は得意気で、カミュは妹の手前驚いたことを必死に隠していた。

「まあ入れよ。…暖かくはねぇけど。」
「うん!ルキも入って良い?」
「外みてぇなもんなんだから気にすんな。」
「ありがとう。ルキ、暴れちゃ駄目だよ?」
「わん!」

ルキは真っ先にマヤの元まで駆け寄った。イシの村に2人が来るたびにマヤに遊んでもらっているので習慣なのだと思われる。

「ルキ…イレブン…。」

マヤはまだ目を丸くしていて、イレブンはサプライズが成功したことに相変わらず得意そうだった。その様子に何故かカミュも得意げな気持ちになる。
しょげさせていたことさえ演出に見えてくるから不思議なものだ。

「え、だって今日は」
「ああそうだ。お前、人のことなんて言ってフッたか覚えてんだろうな。」
「勿論、家族で過ごしてきたよ。でも、ロウじいちゃんにとってはマル姉も孫みたいなものだし、今日はちょっと早めにパーティしてから、みんなのところ回ってきたんだ。ここが最後。さっきはベロニカ達のところに行ってきたんだよね、ルキ。」
「ワン!」
「ルキってば雪みるの初めてだからさ、テンションあがっちゃって大変なんだ。」
「そうか、なんだそういうことなら最初から言ってくれれば。」
「サプライズなのに言っちゃったらだめじゃないか。」
「そりゃそうだけどよ。」
「それと、もう一つ。」

イレブンはマヤの前まで歩いて行き、鞄をごそごそ漁って包みを出した。
「これ、マヤちゃんにプレゼントね。お母さんと僕から。」
「え?」

赤の他人から何かを貰うなんて初めてじゃないだろうか。
マヤは驚いたまま硬直している。
「ちゃんと礼しろよ?」
「え?え?」
「…カミュに似て暑がりかもしれないって言ったんだけど、母さんは『女の子は体冷やしちゃだめよ』って聞かなくて。良かったら使ってね。」

マヤが恐る恐る包みを開けると、赤いブランケットのようなものが現れた。
「すごい…これ。」
それはとても柔らかい。そして暖かい。
マヤが感じたことのない温もりだろう。

「何か、色々ボタンを止める場所を変えると何か出来るって言ってたんだけど、僕、よくわかんないまま持ってきちゃったんだ。」
「おいおい。」
「大丈夫、使い方の紙ついてるから。」
「どんだけ周到なんだよ…。つーか、お前からじゃねぇのかよ。」
「僕は材料調達係だから!」

マヤはそれを被り、いや、その使い方が正しいとは思えないのだが頭からブランケットをそのまま被ったように羽織って、珍しく満面の笑みを浮かべていた。
「ありがとう、イレブン!」
「良かった、喜んでもらえて。」

ぎゅううっとそれを握り締めてから、マヤはルキを連れて雪原へ走って行った。
「ルキ、雪の上でたっぷり遊ぼうぜ!こいつがあれば寒くねぇから!」
「ワンワンッ!」

気を使わせたことは百も承知だ。
だから、ちゃんとしなきゃいけない。
カミュは妹たちの姿が消えるのを確認してからイレブンに向き合った。

「ここが最後かよ。」

2人きりになって漸くイレブンは、恋人の顔を見せた。

「だって、一番時間かけたいじゃないか。」
「なるほどな。」

そっと手を握るとふっと胸に飛び込んできた。
「ハッピーホリディ。」
「ああ。」

この聖夜は、大樹への感謝を捧げるのが元々の習わしだった、らしい。今となっては形骸化してきている部分もあるが、基本的にロトゼタシアの人間の心には大樹への感謝がある。とはいえ。

「大樹に選ばれた勇者サマに言われると一味違うな。」
「元、だよ。」

ぎゅうっと抱きしめられて、抱きしめかえす。

「…今夜は君に会いたかった。」
「本当に?」
「ホントだよ!…本当は、君もマヤちゃんも一緒に食事に誘いたかったんだけど…。」
「まぁ…色々あるよな。」
「中々難しくて。お母さんは了承してくれるんだけどね。小さな村だから目もあるし。」
「解ってる。…来てくれただけで嬉しい。」

見つめ合えば何時ものように頬を赤く染める。

「マヤが席外してくれたんだぜ?」
「解ってるよ…。」

イレブンが目を瞑ったので、そっと唇に触れる。

久しぶりのキスに体が燃え上がる。

「最高のプレゼントだな。お前と…過ごせるっていうそれだけで。」
本音だったのだけれども、イレブンは口をとがらせる。
「盗賊の癖に無欲じゃない?」
「元、だろ。」
「…俺の分はプレゼントないのかよ、とか言わないの?」
「え?」
悪戯な笑顔に思わず驚く。
「…要らないならいいけど。」
「なんだよ。お前にリボンつけりゃそれでいいんだけど。」
「もう、すぐそういうこと言う。…欲しくないならいいけど、用意したしあげるよ。」

差し出されたのは、グローブ。

「どうせ新調してないでしょ?あとせめてもの防寒。」
「寒さの基準がお前か…けどありがとうな。鍛冶で作ったのか?」
「えへへー。」
「…お前ホント、鍛冶で食ってけるよな。」
「それもいいかな、ってちょっと思ってるんだけどね。」
「けど?」
「…素材集めてくれる相棒が居ないとね。」
「そのための相棒かよ。…喜んで引き受けるけどな。」

貰ったグローブをはめてみる。ぴったりと手に馴染むし、何となく暖かい気がする。
「器用さあがった?」
「かもな。ためさねぇと解らねぇけど。」
「今度試しに行こうね!」
「そうだな。…ありがとうな、イレブン。」
「うん。」

にっこりとほほ笑んで、本当に愛おしくて、
もう一度、今度は彼好みの軽いキスをしてやる。

「あー…実はな。昨日、お前のとこ行ったんだ。」
「え?そうだったの?」
「ああ…。まぁ居なくてそのまま帰ってきたんだけどよ。」
「ごめん、デルカダールまで買い出しに行ってて。食材とか色々。けど、何で?」

「…渡したいもんがあったんだ。」
「何?」

首を傾げる仕草を、久しぶりに見た気がして嬉しくなる。
兄妹の力作だ。
きっちり渡さないと。

「目、瞑って。」
「え、なに怖い。」
「いいから。指広げて。」

恐る恐る目を瞑り手を広げる。
手袋を取り去る。

「寒ッ!」
「我慢。」

カミュはその右手の白い薬指に、あの指輪をそっとはめた。

「なに?指輪?見ていい?」
「ああ。」

イレブンがゆっくり目を開けた。

右手を見る。

見たこともない紫の宝石。素材なんかとは違う。美しい透明感のある宝石。

「え?」
「俺からの…いや、俺達からのプレゼントだ。ありふれてない物を渡したかったんだ。」

イレブンは素っ頓狂な顔をして突っ立っていた。

「イレブン?」

目の前で手を振ってみてもぼーっとしているだけだったが、
突然ふにゃふにゃと座り込んでしまった。

「お、おい。」
「…んぅ…こ、こんなの貰うなんて…」
「何、驚いてんだ。」
「お…驚くに決まってるよ…!!」

指輪をぎゅっと握りしめる。
「ありがとう、ごめん、ぼ、僕ももっとちゃんとしたの用意すればよかった」
「あー、別にそういうんじゃなくてな。…色々と理由があんだよ。」

カミュはイレブンの隣に座り込み、俯き気味な彼の肩を引き寄せた。

「…ネタバレするとだな。…お前の気を引くために作ったんだ。いや、俺がお前に断られたって知ってな、あいつ、絶対に嫌だとか何とか言って。俺もお前と一緒に過ごしたかったから、2人で共謀して、お前の気を引けるようなもんを用意してやれって。で、まぁ色々な助けを借りつつ、そいつを作ったわけだが…出来上がったのは昨日で、昨日はお前がいなくて。」

細やかな二人旅を思い出す。悪くない時間だった。

「だから、なんつーか…お前の為に作ったっていうよりは、俺の為に作った指輪だ。」

お前に似合うと勝手に紫を選び、ホムラの里で作ってもらったけれど、イレブンに似合うかどうかというよりは、イレブンにプレゼントを用意している自分、というのに浮かれていた。

「本によると、だな。その石、光を浴びてると変色するらしい。」
「やだ、そんなの困るよ!」

ばっと顔を上げて、眉を顰める。少しだけ泣きそうなその顔が本当に愛おしい。

「だから…変色するよりも早く、次の指輪用意するから。お前の、左手に相応しい指輪。」

今度こそ、ダイヤモンドの指輪を。不変の愛の為に。

「その時はちゃんと、お前の家族にも、勿論ロウじーさんにもちゃんと話をするし、認めてもらう…村の人がどうこう言うって言うんなら全部何とかするし、人の目が気になるっていうんなら人気のないとこ見つける。来年は…家族としてお前と過ごすから。」
「カミュ…それって、」
「もうちょっと待ってろよ?」

ぎゅっと抱き着いてきたその行動が、回答なのだと思う。
来年はこんな場所じゃなくて、寒がりな恋人の為に、もっと暖かくて明るいところで、ゆっくりと過ごしたい。過ごして見せよう。

何度もキスをする。
何度したって物足りなくて、体が求めている。
見つめ合う水色の瞳に自分しか映っていないことが心を満たしてくれる。
ぴったりと寄り添う恋人はすっかり溶けてしまったように絡みついてきて、それはとても心地よくて、いっそ一つになりたいと願ってしまう。

「…今夜はもう、離れたくないよ。」
イレブンがそんなことを言うのは本当に珍しいのだけれど。
「マヤが戻ってくるまでに終えられるような熱じゃねぇよ。」
「カミュ…。」
「こんな寒いとこじゃ流石にお前も風邪ひくぜ?ちゃんと暖かいところで、たっぷり抱きたい。」
お預けされたイレブンは物足りない様子だったが、カミュとは違って恋人を困らせる趣味でもなかった。
「…君がそういうんなら。」

名残惜しそうに二つの体が離れる。
冷たい空気に頬の熱が冷めていく。

カミュはイレブンの頭をぐっと寄せて耳元で囁く。

「…明日、クレイモランの宿屋に、昼。…来られるか?」

イレブンはコクンと頷いて、目の下を真っ赤に染めていた。


座り込んでいるイレブンを起こして、カミュはイレブンの外套についた埃を叩いてやる。
「厚着してるの相変わらず可愛いよな。」
「カミュはいっつも、どんな時期でもそんなに寒そうな服着て、本当に信じられないよ。」
「恋人お手製のグローブっつー防寒具があるわけだが?」
「そんなの…せめてそれで温まって。」

改めて見つめ合って、見慣れた顔なのに見るたびに見とれて、ルキの足音が聞こえたけれど、そっと軽くキスをした。

「兄貴、ちゃんと用件済ませたか?」
一応許可を得てからマヤが入ってくる。
「当然だろ?」
「…マヤちゃんも、ありがとうね。」
イレブンはかじかんで赤くなった右手を見せた。
「ほら、もう手袋しねぇとしもやけになるぜ?」
「まだいいの。ルキ抱っこするから寒くないし。…村入る前にするよ。」

隠したがりなイレブンにしては珍しいけれど、それが嬉しい。

「ルキ、帰ろう?」
「ワンッ!」

ドアまで見送る。
「マヤにまで悪いな。宜しく伝えてくれよ。」
「うん。」
「今度、遊びに行くから。」
「うん。」

僅かな時間、見つめ合う。
積もった雪が解けてしまいそうなほど、頬を赤く染めている。

「また、明日ね。」
「ああ。」

マヤに見えないように最後に一度キスをして、ドアを閉めた。


賑やかなホリデーが去って行った。


「…イレブン喜んでたか?」
「見ただろ?寒がりなあいつが手袋しねぇなんて。…お前のお蔭だな。」
「ま、だらしねぇ兄貴の妹ってのは気を使うんだよ!」

不貞腐れていた姿はどこへいったやら、発案をした自分の手柄のような顔をしている。
相変わらず貰ったブランケットをまともに羽織っていないが、手放す様子もない。
「今度、ちゃんとお礼しに行くからな?」
「そうだな!心象悪くすると大変だからな!」
「あー、あと。…明日は外出してくる。」
「はいはい。」

また明日会えるのに、恋人に会いたくて仕方がなかった。

これまでの人生で、一番素晴らしいホリデイだった。







翌朝、マヤは、マヤらしくなく、イレブンの母親の手書きのメモを読み、今度こそポンチョのようにしてそれを羽織っていた。
「これ、すげーあったけぇ!」
「暑くねぇの?」
「ちょっと暑い。けど、フワフワで中々寝心地も良かった。」
「良かったな。」

カミュは身だしなみを整えて部屋を出る。

「じゃ、行ってくる。」
「おうよ。」

満足そうな笑みの妹に見送られ、部屋を出た。
クレイモランなんかすぐそこだ。
少し時間が早い気がしたけれど、
早く行けば、早く会える気がして、カミュは足早に向かった。


宿屋の前にはしおらしく立っているイレブンが居た。
「悪ぃ、待たせたな。」
「ううん。僕が早く来過ぎちゃって、でもそんなに待ってないよ。」
そんな時は大体近くのキャンプで鍛冶をしている恋人も、流石に今日は待っていたらしい。
そんなに待っていないという割に、鼻の先が赤くなっている。

「…入るか。」
「うん。」

恐らく昨夜だったら満室だったであろう宿は、本日は空いているらしい。
カミュはフロントで鍵を預かる。

「角部屋だな。」
「部屋番号だけで解るなんて記憶力いいね。」
「まぁ旅慣れてるっつーか。」
「地元でしょ?」
「…。」

カミュは問い詰められないよういそいそと階段を上がる。恋人は言及しつつ付いてくる。
「…もしかして、僕らの旅の時から部屋の位置全部覚えてたりしたの?」
「え?あー」
「角部屋の時は、よし!声漏れにくいし、いける!とか思ってたんだ?」
「ま、まぁいいじゃねぇか。」
「図星…。」

呆れる声は少し楽しそうだった。

部屋の前に着く。

「…時間はたっぷりあるぜ?」
「…うん。幸せな時間がね。」

201号室のドアを開ける。

2人の幸せな時間が始まる。






鍵を掛ける。

2人だけの空間が広がる。

カミュは自分より背の高い男をドアに押し付けて、唇に齧り付いた。

「んッ…。」

お互いの体が僅かとも離れないように、強く抱きしめる。
舌を絡め、吸い付くキスに、外の寒さ何かどこかへ行ってしまった。

「っあ…。」

漸く離れると、銀の糸が引いて消える。

身を委ねてくるイレブンを、ベッドにゆっくりと押し倒す。一切の抵抗はなく、熱い視線を送ってくるだけだ。
「カミュ。」
愛おしそうに呼ばれる度にキスをする。

厚着のイレブンの服を少しずつ脱がせていく。
こんなにストーブの効いた部屋では暑いだろう。

モコモコのコートをはぎ取り、手袋を外す。
昨日の指輪が光っている。

「気に入ってくれた?」
「もちろん。…昨日は指輪したまま寝ちゃったんだ。」
「…見せた?」
「ごめん。まだ見せてはないけど、たぶん気付いたと思うよ。」
「来年までにはちゃんと許可貰うつもりだからな。」
「うん。」

最後のインナーを脱がせれば、イレブンはすっかり素肌を晒した。
「寒いか?」
「ううん。…暖房効いてるから大丈夫。…けど、早く君の体温が恋しい。」
「待ってろ。」

恋人を待たせないよう急ぐ。
その間、脱がされたまま艶やかに座っていた。

白い背中とその曲線、柔らかな尻。

触れていいのに、触れたいと思う。

カミュはさっさと衣服を脱ぎ捨てて、体温を待っている体を後ろからゆっくりと抱きしめた。
イレブンが背を反らすように体を捻って、唇が触れ合う。

優しく抱きしめていると、じわりと汗ばみ、吸い付く。

「カミュ…。」
「今日も綺麗だ。」
「…恥ずかしいよ。」

なされるままに抱きしめられながら、イレブンは小さく呟く。
「今日も、君は、かっこいいよ。」

普段はあまりそういうことを言わないだけに、ぐっと来た。
容姿を褒められることはそれなりにあるけれど、やっぱり恋人に褒められるのが一番嬉しい。恋人に言ってもらえるのであれば、他の人間に何を言われようがどうでもよくなる。

「もっと言ってくれてもいいんだぜ?」
「結構言ってるつもりなんだけどなぁ。それに、言われるより、こうされる方が好きでしょ?」
そう得意げに笑って、頬骨にキスを与えてくれる。
「…本当に、可愛いことしやがって。」

体をつなげるのは勿論気持ちが良いのだけれど、こうしている時間もとても愛しい。

カミュは珍しく首飾りを外した。
「とっちゃうの?」
「体さえ有れば今はそれでいい。」
横になり、その上にイレブンを寝かせて抱きしめて、お互いの薄っぺらい胸を重ねる。じんわり汗ばむのは、暖房のせいだろうか。
お互いの鼓動がまるで愛を囁きあうようにドクドク言っている。

「首飾りつけたままじゃ、こうはいかないだろ?」
「…うん。」

何時までもこうしていられる。
がむしゃらだった頃は、体をつなげるので必死だったけれど、今日は時間もあるし、何者の邪魔が入ることもない。
このまま朝が来ても構わない、お互いにそんな気持ちだった。

「君だけを、見て、感じて…。贅沢な時間だね。」
「お前の視線を独り占めできるっていうだけで、貴重な時間だ。」

イレブンがのそのそと肌を触れ合せつつ顔を寄せてくるので、何度もキスをしてやった。そのたびに、ん、と可愛い声を漏らしてくる。頬を染める姿を見ていると、やっぱり繋がりたいとも思えてくるから不思議なものだ。

普段の行為は、自分がイレブンを味わっている行為だと、カミュは時折そう感じていた。イレブンから自分を求めることはあまりないし、自分のワガママを受け入れてくれることが、彼の愛情の証なのだということも頭では分かっている。
けれど、時には求められたい。


「なぁ、頼みがあるんだけど。」
「何?」


「ここに、跡つけてくれねぇか?」

そう言って、胸の、鳩尾の辺りを指す。

「え?だってそこ、みえちゃうよ?」
「ああ、見せたいんだ。見せつけたい。…ダメか?無理にとは言わない。嫌なら構わない。」

普段、イレブンの、見えない場所には跡をつけている。イレブンはそれをあまり良しとはしていないのだけれど、見えないので黙認してくれている。カミュに跡をつけることを嫌がるには違いなかった。

イレブンはゆっくりと示された場所に口元を近づける。
「…本当につけるの?」
「ああ。」

実に恥ずかしそうにしているのだけれど、つけてくれるらしい。
「付けたことないから、ちゃんと付くかわかんないよ。」
「吸いつけばいいだけだから。」

一度、場所を確認するようにチュッとキスをする。それだけでカミュは全身の神経がピリリと緊張した。

「…跡つけるのって、結構大変なんだね。君は何時も自然にしてるけど。い、痛かったらごめんね。」

少し怖気づきつつも、イレブンはちゅぅっとカミュの鳩尾に吸いついた。
ちゅ…
少しだけ歯を立てて、まるで甘く齧るようにしてから唇を離す。ぬたりと糸が引いた。

「ついた…かな?」

カミュはキスされた場所をなぞる。赤く跡がある。
恋人に初めてつけてもらった跡。

「最高に嬉しいぜ?」
「僕は最高に恥ずかしいよ。…皆に見られちゃうなんて。」
「見られたって困ることはねぇだろ?ああ、こいつは恋人がいて幸せなんだな、って思われるそれだけなんだから。俺もお前の体に一杯つけていいか?」
「…いいよ。今日は…首でもいいよ?」

カミュは体を起こしてイレブンの胸のそこら中にキスをした。敏感なところに触れないように気を付けつつ、甘く噛み、白い胸を味わった。そして、珍しく許しのでた首に、優しく脈を感じるようにそっと跡を残す。

「っ…カミュ…やっぱりはずかしい…。」
カミュはキスをし続けながら、応じる。
「何で?綺麗だしな。…それに、風呂入ってきただろ?」
「何でわかるの?…ッん」
「…味?」
「やだ…。」
「冗談だって。」

カミュは恋人の唇に熱いキスを与えてやる。

「悪い、お前に夢中になりすぎてシャワー浴びるの忘れてた。ちょっと待ってろ。すぐに出てくる。」
「…僕も行く。」

手首をぎゅっとつかまれた。

「お前浴びて来ただろ?」
「僕も、一緒に行く。…一秒も離れたくないから。」

どうして今日はこんなにも萎らしいのか。指輪のせいだろうか?それとも、聖夜を一晩共に過ごせなかったことからきた申し訳なさなのだろうか。

カミュはイレブンの手を引き、浴室へと向かった。
向かい合うように立ち、イレブンの体が冷えないように気を付けつつ、時折キスをしながら、2人でシャワーを浴びていた。

「…僕の跡、ついてるね。」

白い指で鳩尾をなぞられる。それを指でなぞる。

「お前の体の方がよっぽどついてるぜ?」
「うわ、ほんとだ。…何でこんなにつけるの上手いの?」
イレブンは自分の胸の跡を数えるようになぞる。
「増やしてやろうか。」
そう言ってもう一度噛みつく。
「あん、もう。やだ…」

噛まれないように抱き着いてくる。それが愛おしくて何度もキスをする。
カミュはその腰を撫でていたが、誘うようにゆっくりと下へ伸ばしていく。白い体がビクンと震え、耳元で小さく甘い声が漏れたのをいいことに、臀部を優しくなでまわしつつ、大事な場所へ手を伸ばす。
「ッあ」
何の円滑材もない状況で引っ掻き回すなんてことは絶対に出来ないけれど、これからする行為を意識させるように、指先でツンツンと刺激し、少しだけ先を入れるように力を込めてみる。
「んんっ」
第一関節までぬぷりと入ってしまった。
「あん…!んっ、やだ…」
「入っちまったんだから仕方がねぇだろ?」
「ッ…」
抜いたり挿したりを繰り返し、少しずつ煽っていく。
「んあッ」
力が抜けそうになり、カミュの体にぎゅっと掴まった。
「ん…きもちい…。」
「本当に気持ちがイイのはこの後だろ?」
「ん、はやく…」

おねだりに気を良くする。

「早く欲しい?」

耳元で囁くように尋ねると、こくこくと無言のまま頷く。

「じゃあ、俺の、綺麗にしてくれる?」
「かみゅの…。」
イレブンはゆっくりと視線をおろし、顔を真っ赤にした。

「カミュの…だって。」
「そりゃもうとっくに勃起してるぜ?耳元でこんなに可愛い声出されて起たねぇ男はいねぇよ。ちゃんと綺麗にしてくれたら、すぐにでもベッドに連れてって、一杯、気持ち良くしてやるよ。」
「っ、カミュ…」

イレブンは顔を逸らして、目をぎゅっと瞑りながら、カミュの腹をなぞり、その下へゆっくりと手を伸ばした。
「あ…」
熱に触れる。
「…あぁ…カミュ…。」
「ゆっくり、ちゃんと綺麗にするんだぜ?」
「ッ…」

両手でカミュのペニスを包み、優しくなでる。口でしたこともあるし、勿論触ったこともあるが、それは気持ちよくするためだった。だから、イイ場所をたくさん弄ればカミュは満足してくれた。でも、今はちょっと違う。こんな風に触ったのは初めてかもしれない。

くちゅ くちゅ くちゅ

カミュに秘部を弄られながら、イレブンは緩慢にカミュのペニスを洗う。本当に早く欲しがっているようで恥ずかしかったが、止めることも出来なかった。
「カミュ…。」
「まだだろ?」
「ん」

触れていると、どんどん欲しくなる。
自分の手の中にあるこの熱が、自分の体を突きあげるのかと思うと、ぞくぞくした。キスをすればするほど、咥内を舌が廻ればめぐるほど、まだ繋がっていない体が疼く。

「んっ、かみゅ…まだ、だめ?」

手の動きが止まっても、手放そうとしない出来上がった恋人にカミュも限界を感じる。
「綺麗になったな?」
「ん。」
良く出来ました、とキスをされてイレブンの羞恥心は薄れていく。恥ずかしいということよりも、早く抱かれたいと思いで満ちる。息は少し荒く、目は潤んでいて、男を求めている顔をしている。それは恐ろしく扇情的だった。

シャワーを止めて、体が冷えないように簡単に水を拭き取ってやる。それから約束通り恋人を抱え上げて、ベッドへ連れて行った。

優しく横に寝かされて、キスをされながら雄を待つ。
「腰の負担になるし、後ろからな?」
「うん。」
カミュがオイルを持ってくる間にイレブンは腹の下に枕を指しこんでうつ伏せになる。まだ昼だから、部屋は明るいのだけれど、不思議と今日は秘部が光にさらされても恥ずかしくなかった。彼に一杯弄られたからだろうか。

「相変わらず、白くて綺麗な尻だな。」

カミュはベッドで尻を差し出している恋人を見て興奮を禁じ得なかった。シミ一つない美しい臀部はまさに骨董のようだ。
「沢山触らせてくれよ。」
やわらかい肉にキスをしたり舐めあげたりすると、ひゃん、と声を上げてからじれったさそうに身を捩り感じてくれる。

「はずかしぃ、」
「さっき一杯綺麗にしたんだから平気だろ?まぁ、あんまり焦らすのも可哀想だからな。指、いれるぜ?」
「うん。お願い…」

オイルをしっかり温めてから、晒されている場所をヌルヌルと弄る。
「ん、あぅ」
さっきので、イレブンの尻は男を咥える覚悟が出来ていたらしい。ぬぷん、と指が入った。
「あ、あぁ…はぁ」
指を増やして、中を混ぜる。
「はずかしいよ…!!」
「その割には腰動いてるぜ?」

人差し指をゆっくりと挿し入れする。その度に腰がビクビクと震え、口がきゅんきゅん締まる。
「んふっ」
指を咥え揺れる腰と、零れる嬌声に熱が上がる。

すぷりと指を抜くと、穴がぽかりと空く。

「イレブン…。」

イレブンの体が自分を求めている。開いた口が誘っている。

「イレブン…。」
背中からぎゅっと抱きしめた。白い背中にキスを落とし、吸い付いて、背を撫で、尻を撫でて。触れる熱にイレブンは荒く息をしながらシーツをぐっと掴んだ。

「…本当に、綺麗だ…繋がりたい、一つになりたい。」
「いいよ、カミュ…入れて…一つになろ?」

体を捩って見上げてきたイレブンの顔にキスをしてやり、腰をぐっと掴んだ。秘部はまだぬたぬたと怪しく光っている。
「入れるぜ?」
「ん。」

横になっている彼の秘部にぐりぐりと亀頭をこすりつけると腰が揺れた。そして、開いていた口が亀頭を飲み込む。ゆっくりと押し込まれ、二つの体はピタリとくっついた。

「はぁ…はぁ…かみゅ…ぜんぶ、はいった?」
「ああ、全部だ。イレブン。お前の中に、全部入ってる。」
「カミュ…。」

イレブンの背中に胸をぴたりとくっつけて、ゆっくりと腰を振り始める。
「うッ…。」
シーツを握る白い指をそっと握ってやる。
今は無理にイかせるようなつもりは無い。熱をすりつけるように中を擦る。
「かみゅ…あつい…。」
「ああ、熱いな。痛くはないか?」
「うん…ッはぁ…、もう…とろとろだよ…。」

緩慢な律動を止めては、肩甲骨のあたりに吸い付く。そんなことをしているだけで本当に幸せだった。
「かみゅ、きもちいい?」
「勿論だ。お前の体、お前の熱…全部が心地いい。」
「ぼくだけじゃなくて…よかった…。」

ぬぷっ ちゅぷっ

「ッ…はぁ、イレブン…すこし、強くするぜ?」
「ん、して…。」

カミュは腰をぐっと掴み、イレブンの中の形に逆らうようにぐっと上から押し込んだ。
「ひゃぁんッ」
中イキの場所の近くを刺激する。穴がきゅっとしまる。
「いまの、きもちいい…」
「お前のその声…どんどん、固くなる…わるい、負担だよな。」
「だいじょうぶだよ…?もっと、つよくしていいよ?」

愛おしいから大事にしたいのに、もっともっと欲しくなって、
負担をかけると解っているのに、もっともっと激しくしたい。

カミュは抜けないようにしつつ、イレブンの腰を持ち上げて、四つん這いにさせた。普段なら恥ずかしがるのに、今日はそれを堪えて尻を突き出してくれる。
「ちゃんと、イかせるから。」
「いっぱい、いっぱい、きもちよくなって…!」

腰を振る。さっきよりももっと激しく、もっと強く。
イレブンの中をゴリゴリとこすり、イかせる。
「あ、あ、あ、あ、」
大きく喚くこともないが、抑えきれない甘い声が部屋を満たして、カミュの腰は重くなる一方で、その熱でさらにイイ場所を責め上げる。
感じることで精いっぱいで、煽る言葉も出てこない。
ぶつかり合う肌の音が耳を抜けていく。

自分の中に入っているものがカミュのモノではなく、愛そのもののように思えて、イレブンはそれを失いたくないときゅうきゅうと締め付けた。
「あ、あ、ッかみゅ、かみゅ、うッ…はぁ、いっちゃう…」
「ちゃんとイけよ…俺もお前の中でイくから。」
「んッ、はぁ、はぁ、カミュ…」

イレブンは肘を折り、胸をベッドにつけて腰をさらに突き出して、カミュの顔を伺おうとするように覗きながら、右手を伸ばした。
指輪がある。
「イレブン…。」

手を握り、指を絡めて、腰を早める。

「ッ、う、あぁああ!!」

指に力が入る。左手もシーツをギュッとつかみ、背中が反る。
「イっちゃう、いっちゃうよ、かみゅ…!!」
「イレブン…!」
「ッあ、あッ…うっ…はぁ、かみゅ、かみゅ!」
「もっと名前呼んで・・・!」

「かみゅ、かみゅ、かみゅッ…!いっちゃ…うぁッ。ああッ…!」

ビクンと体が震えて、指の力が抜けた。ぐっと締め付け、腰を振り、中は求めるように蠢いて、
カミュもそこへ、求められるまま、精を放った。

「ッ…イレブン…」

白い背中には、赤くキスの跡が咲いていて、体は放たれた熱に打ち震えている。
美しいものを滅茶苦茶に乱してしまった背徳感と独占欲がぐるぐるしていた。

「カミュ…」

息が整ってきたイレブンがカミュの様子を伺うように右を見たり左を見たりオロオロしている。
カミュは何も言わずに一度自身を少し乱暴に引き抜いて、白い体をひっくり返した。胸にも赤く跡が散っている。戸惑っている様子を気にもせずに、脚を抱いて、再び自身を挿した。
「ッ、カミュ…」
「顔、見たいだろ?」
「うん…。」
「俺も見たい。」

イレブンの右手を左手でとって、甲に優しくキスをする。吸い付いたり齧り付いたりするものではない。本当に触れるだけ。

「お前が欲しい。…不思議だよな、こんな風に体も繋がってるし、お前も愛してくれてるっていうのに…まだ、まだ、足りないんだ。欲しいんだ。自分でも、よく解らねぇ。」
「だって、カミュは…盗賊だもんね。欲しくて、欲しくて当たり前だよ。」

イレブンの左手がカミュの左手の指を掴んで、優しく握る。

「僕も、もっと君が欲しいよ。…貪欲だよ、だって盗賊の相棒だから。」
「…お前、」
「“でも”…違うか。“だから”かな、皆の前から堂々と、僕を攫っていって。見せつけたいんだ、僕の恋人はこんなにカッコイイって。僕が手に入れた、大事な、君をね。」

そんなことをねだられて、そうしないほど廃れていない。

「絶対に、奪いに行くから。」
「待ってる。」

ねぇ、キスして、と言われて齧り付く。イレブンの手がカミュの顔を捕まえて、息する間もない位に熱くキスをする。

「いっぱい、いっぱい、抱いて…?」

恋人に気を遣わせているのかと、頭の隅で考えた。けれど、答えが出るよりも先に、カミュの体はイレブンを求める。
穴の締まりを使うように入口手前でカリの部分を擦る。
「…さっきより、かたいきがする…。」
「かもな。お前のせいだぜ?…固いのが好きでそんなこと言ったのか?」
「ちがうよ…。でも、ちょっとは嬉しいよ?」
「ったく。」

どちゅん、と奥を突きあげる。

「きゃんっ!」

さっきは多少遠慮したけれど、不要なようだ。

「俺を煽って、後悔しても知らねぇよ?」

そう宣言をして、奥をまた一突きする。さっきより大胆な声を上げる。それからイレブンは恥ずかしそうにしながらも、カミュの上腕を掴む。
「…お手柔らかに…。」
「出来るだけ、な?」

もう一度優しく唇にキスをしたあと、男は不敵に笑った。
イレブンはそれを見て、少し眉を顰めつつ、優しく笑う。



日は漸く傾き始めたばかりだ。
甘い、聖日になった。









「沢山していい、って言ったのはお前だよな?」
「…言ったよ。」
「だから腰が立たないのも諦めろ?」
「…納得いかない。」

腰の重さにイマイチ体が言うことを利かないイレブンは、カミュに良い様に抱きしめられて寝ていた。

「…カミュと一緒になったら、毎日こうなっちゃうの?」
「それは俺もちょっと悩ましいんだ。毎晩1回するのと、3日に1回激しくするのと、どっちがいい?」
「…。」
「毎日激しいのがいいか?中々積きょ」
「ばか。」
腹を抓る。

カミュの胸に赤い跡が残っているのに気が付いた。
「…朝までには消える?」
「消えたら付け直せよ。」
「やだよ。」
「見せつけられねぇじゃねぇか。」
「誰に見せるっていうの。」
「…マヤ?」
「ちょ、ちょっと!」
「今更隠しようもねぇだろ?それに、そいつの功労者だぜ?」

イレブンの指輪をつっつく。イレブンは照れくさそうに笑う。

「恋人と泊まりに行って何もしなかったのかよ、バカ兄貴!、とか言われかねないぜ?」
「あはは!」
「おいおい、笑いごとじゃないぜ?」

イレブンは、もぞもぞと腕の力でカミュの胸まで移動して、再び鳩尾に唇を寄せる。少しだけ場所をずらして、あの時と同じように、チュっと吸い付く。
「んッ…。」
ぷちゅりと唇が離れると、跡が残った。
「上手くなった?」
「お前…。」
「マヤちゃんに伝えて。君のお兄ちゃんは、たっぷり愛されてますよ、って。」
「…ったく…。」

恋人にも妹にも頭の上がらない未来が見える。
悪くはない。


夜はたっぷり更けていく。
イレブンは恋人の腕の中で深く眠りについた。

「お前を手に入れた俺からすれば、ダイヤモンドくらい簡単に手に入れてやるよ。だから、もうちょっと待っててくれよ。」

額にキスをしてから、
カミュもまた、眠りについた。

幸せな未来を抱いて。













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