雨の日の事件
初出:べったー/2017-11-11

掲載当時は「グレイグとホメロスが刑事してて、カミュが護衛な話。」というタイトルでしたが、長いので改題。



ユグノア公アーウィンの誕生日を祝い宴が行われた日の夜のことであった。
関係者を集めての祝賀会はユグノア公の別荘で行われた。
それは大変盛り上がり、今はその片付けの最中である。

「来賓が帰ってからの雨で助かったな。」
「そうだな。」

2人の刑事が大降りの外を見ながら零した。
テレビでは記録的雨量だの、組閣の話なんかが繰り返されている。
画を見るまでもないから、耳だけで聞いていた。

「俺達はここに缶詰か。この雨ではな。」
「記録的、とは。最近は更新しすぎじゃないか?」
「確かに最近雨が多いな。まぁ今回は恵みの雨ってことにしておこう。こんな屋敷で一晩過ごせるなんてそう無い機会だぞ?」
「お蔭で全然休める気がしないがな。たかがゲストルームが何でこんなに豪華なんだ。」

刑事2人は本日の宴の警備を担っていた。
というのも、その義父に当たるデルカダール公は
ユグノア公と家族ぐるみで仲が良く、
警察でも幹部クラスの2人に警備なんていう仕事は
役不足も甚だしいことを承知の上で依頼したからだった。
あまりにも大がかりな警備では宴に水を差す。
2人は招待客に紛れていた。

「これで酒が楽しめれば最高だったんだがな。」
「グレイグ。仕事中だぞ?」
「わかっている。」

丁度そんな話をした時だった。ドアがノックされる。
2人の内白いスーツの身軽そうな男が出ると、給仕が立っていた。

「イレブン王子より差し入れでございます。」

手元のワゴンには夜食とワインが載っている。

「今夜はお仕事で中々楽しめなかったのではないかと。」

ユグノア公の治める領土はロトゼタシア最高峰のワインの産地である。
一か月分の給料が吹っ飛ぶくらいの高級ワインだ。

「王子をお気遣いを断ることほど無粋なこともあるまい。」
「ああ、ではいただくこととしよう。」

受け取り、給仕を帰してから2人は細やかな打ち上げをした。

「しかし、王子は本当にエレノア様に良く似ておられる。」
「久しぶりにお会いしたが…まぁあれでは、公爵が過保護になるのも納得だな。」

ユグノアの王子は、早々人前に姿を現さない。
本来であれば自分の世継ぎを世間に知らしめるものを、
どうにも公爵は隠したがった。

「今日の参加者がこんなに多かった事の一因か?流石に父親の誕生日には顔を出すと解っていて参加しに来たんだろう。」
「そうでもなければこんな森の奥まで態々車を走らせたりはしないだろうからな。」
「公爵も解っていてわざとこんな場所で開いたんだろう。」
「聞くところによれば、先日も求婚されたそうだ。酒の席で話しているものがいた。」
「当然男だろうな。」
「だろうな。」

父親に似、背丈はある。だが、その顔立ちや線の細さ、髪の美しさ等等は、
全て母親であるエレノア妃から受け継がれている。
その、細すぎず引き締まった長い脚に何人の足フェチが魅了されたことか。

「お蔭で、見ただろ?」
「ああ、俺達のことさえ睨んでいたぜ?」

王子のすぐそばで常に警戒していた、少し小柄な男。
青い髪が実に目だったが、何よりその目だ。
警備の自分たちより余程警戒していたようだ。
黒のスーツを纏って一見普通の護衛であったが、
「あれはかなりの猛犬だな。」
「今日無事に済んだのはアレのお蔭かもしれないな。アレを掻い潜ってまで話しかけるなんて至難の業だ。お蔭で今日は王子に一言も声を掛けられなかった。」
「お前までか。」
「グレイグ、お前もか。とはいえ、」

すっかり空になった瓶と皿を見る。

「これの礼はしっかりしないといけないな。」
「礼ということなら、流石にあの番犬も大人しくしてくれることだろう。まぁもうお休みだろうし、明日になるか。」

その直後だ。


きゃああああ!!


という、女性の高い悲鳴が聞こえて、2人の酔いがさっと醒めた。
「いくぞ!」

2人は声が聞こえた方へ走り出した。

玄関ホールはすでに人が集まっていた。
「あなた!」
「父上!」
アーウィン伯爵が階段の下で倒れており、エレノア妃と王子が枕元に寄り添って声を掛けている。
「失礼。」
人ごみを掻き分け2人が近寄る。

辺りに激しい出血はないが、額から少し血が出ており、頭部を強打している可能性がある。
「あなた…」
「母上、触れては駄目です。」
王子は気丈にも母親を止めた。
「頭を打っていると、動かさない方が良いこともあります。」
エレノアは苦しそうに王子に縋りついて涙をこらえていた。

「医者は?」
グレイグが確認すると王子が答えた。
「先ほど呼びに行かせましたが…。」
真っ直ぐとグレイグを見つめる。不安の色が混ざっていた。
「この現場は我々が抑えます。どうか皆様階段の手すりなど、触れぬよう。」
「え?」
「グレイグ様、どういうことでしょうか。」
グレイグはあえて少し低い声で冷静に言った。

「恐らく…転落でしょう。頭を殴打している可能性がある。
これが事故が事件か解りません。ですが、
如何せんユグノア公爵。…初動が肝心です。」

「それはつまり、これが事件かもしれないと。」
王子がはっきりと尋ねた。
「1%の可能性でもあれば、疑います。それが我々の癖でしてね。」
白い方の刑事、ホメロスが言った。

そして現場の写真をスマホで保存する。
「そっと寝室まで運びましょう。頭はあまり動かさない様に。」

ともかくアーウィンをベッドへ寝かせ、
集まっていたやじ馬たちを立ち退かせた。

2人の刑事が現場を見る。

「怪しいものはないな。」
「階段にピアノ線…なんて古い手口もなさそうだ。」
「まぁ今日はお酒も飲まれていたんだ。後ろからトンっとたたけば、この階段くらい転がるだろう。そもそも、自分で転ぶ可能性だってある。勘ぐりすぎかもしれんぞ。」
「とはいえグレイグ。アーウィン様のお部屋は3階。こんなところまで一体何をしに?ここまでいらっしゃる動機がそもそも怪しいとは思わないか?」
「ふむ…。」
「事故なら事故で構わないが…万が一を考えれば今から犯人のアリバイを確認する必要があるな。」
「第一発見者のエレノア様にお話を聞きたい所だが…。」
「とりあえず行ってみよう。」

2人は3階にあるアーウィンの寝室へと向かった。
入口には件の護衛が立っていて、一度睨みつけられた。
「入っても?」
「ああ。」
低い声に2人は強い殺意を感じ取った。
まるで番犬、いや狼に睨みつけられているような。
「失礼する。」
グレイグがドアを開けて、2人は中に入った。
エレノアと王子がベッドのそばで寄り添っている。
部屋に入ると2人は労いの言葉を掛けられる。流石は王妃か。
今は気丈に振る舞っているようだ。
アーウィンの身を案じて慰めにもならない言葉を伝えつつ、現状の報告をした。

「エレノア様、アーウィン様を発見された際のことですが。」
「ええ…御姿が見えないので探しておりましたの。そうしたらイレブンと会って。」
「僕は僕で水が飲みたくて。カミュ、ああ護衛に頼んだんだけど、戻ってこないから自分で部屋を出て、そしたら母上とお会いして。」
「それで?」
「父上の姿が見えないというので、一緒に辺りを探したら、階段の下に…。」
「その際、他の人は?」
「いえ。」

エレノアはアーウィンの顔を見た。
額の傷は応急処置としてガーゼが当てられている。

「この雨で医者も来られないそうで…。傷が小さいのが救いですが。」
「きっと大事ではないでしょう。顔色も優れておられますし。」
そんな言葉で少しでも励ませればと思う。

ホメロスはぽっと質問をした。
「イレブン王子、それまで何処で何をされていました?」
「僕ですが…僕は、部屋でカミュと居ました。」
「そうですか。」
「そ、それは、ホメロス様?まるで、イレブンが」
「いえ、何か目撃されたりしていないかと思っただけです、エレノア様。それでは調査に戻りますので。」

ホメロスは下手な愛想笑いを浮かべ部屋を去った。グレイグもそれに続く。

ドアを閉め、自室へ向かう途中、護衛の耳に届かないほどの場所へ来てから漸くグレイグが問い詰めた。
「ホメロス、どういうことだ?」
「そのままだ。…この屋敷で、アーウィン様の身に何かあって一番利益があるのは誰だ?」
「…まさか。」
「念のため、だ。王子…ではなく、その護衛の方かもしれないけどな。」
「だがな。」

ホメロスは自分たちの部屋のドアを閉じる。
「グレイグ、王子はもう16だ。…何時まで大人しく父親の命令に従う?自主性も色沙汰も許されず。」
「だが、あんなに仲の良い家族はそう居ないぞ?」
「見た目じゃ解らないだろう?」

確かにこの屋敷の中で、殺す動機がありそうなのは、王子だ。
「王子が言わずとも、護衛の方が勝手に、ということもある。水を取りに行って戻って来なかったというのも怪しい。それに、父親が倒れたというのにあの冷静さだ。疑わないのは怠慢だろう。」
「…。」

無論事故の可能性は十分にあるのだが、事件だった場合、怪しいには違いない。

「王子と護衛が口裏を合わせるなんて簡単な事だろう?」
「…。」
「王子の名前で公爵を呼び出し、突き落とす。…それだけだ。」

2人が考え込んでいるとドアがノックされた。

「誰だ?」

ドアを開けると、青髪の護衛が立っていた。


「お前…。」
「うちの王子が疑われてるとなれば、護衛が動かねぇわけにはいかねぇだろ。」

流石にこちらのことは読んでいるらしい。それがさらに怪しさを増す。

「まぁ話をゆっくり聞かせてもらおう。」

護衛を部屋へ誘うと思ったよりあっさり入ってきた。
テーブルを挟み、1対2で向き合う。

「それで。」
「悲鳴が聞こえる直前まで、王子と一緒に居た。それは間違いない。王子に水を取ってくるよう頼まれて遅れたのは自分の部屋に立ち寄ったからだ。」
「なぜ?」
そう言われて護衛はスマホを出した。

「スマホ?」
「これを部屋に置きに。仕事中は基本的に持たないことにしているからな。」
「じゃあなぜ持っていたんだ?」
「仕事外だったからだ。」
「仕事外?王子のそばにいて?」

「イレブンと私室で2人きりの場合は仕事外、ということになっている。」

護衛対象の、それも公爵の息子を呼び捨てとは中々大胆だ。

「い、イレ…!?」
「そうだ。」
「お前、」
「まぁ。多くの連中が手に入れたがったモンを手に入れた男だ。」

つまりは?
「まさか、イレブン様の…。」
護衛はニヤリと笑った。

まさか、護衛につけたら護衛に奪われてしまったとかそんな展開どうなんだ。


グレイグはゴホンと喉をならし、改めて問う。
「まぁ、そうだとしよう。だが、王子とお前が“犯行時間”に一緒にいた証拠があるのか?」
「…ある。」
そういってスマホをトントンと叩いた。
グレイグがそれに触れようとすると、すっと奪われる。
「俺はイレブンの無罪を証明できるのなら何でもする。どういう目にあっても構わない。だがその前に一つ確認をしたいことがある。」
「なんだ?」
「警察にはプライバシーを保護する能力はあるか?」
「どういうことだ?」
「…見たものを秘密に出来るか、と聞いている。」

2人は顔を見合わせた。

「…もし、これが刑事事件になった場合、その証拠で無罪を晴らす、というような場合には公開せねばならないかもしれないぞ。」
「だが、それはあんたらがイレブンを犯人に仕立て上げなければいいってことだよな。あんたらさえ納得させられて、イレブンが犯人ではないと断定してくれればそれでいい。黙ってられるよな?」

「…わかった。」
「ホメロス?」
「仕方がないだろう?…元々あんなにお優しい王子がそんなことをするはずもない。ただ俺達はその“思い込み”で未解決にするわけにはいかないからこそ、証拠を得る。」
「…そうだな。じゃあ見せてもらおうか。」

護衛はスマホの電源を付けた。
壁紙は普通だ。
だが、
「おいおいおい、ちょっとまて。」
動画フォルダのサムネが全部王子である。
「なんだよ。見るんだろ。こっちだって大概恥ずかしいんだから黙ってろよ。」
「ちょっとまて、お前がこれから俺達に見せようとしているものは何なんだ?」
「お前たちが犯行時間と踏んでる時間帯の動画。」
「動画?」
「ハメ撮り。」

は?

「さっき見て確認したけど、本番手前までで大丈夫そうだったから。」
「おいおいおい、いいのかそれ。」
「グレイグ、あわてるな。見てみればわかるだろ。」
「…お前見たがってるのか?」
「当然だろ?証拠だからな。」

その目は嘘をついている。見たいものはそれじゃないと顔に書いてある。

「お前は見たくないのか?」
「……証拠だからな。」

護衛は、動画を再生した。
小さな画面を男2人で覗き込んだ。







「カミュ、お疲れ!…ってまた動画とってるの?」
王子がニコニコと歩み寄ってきつつ、唇を尖らせる。
「ああ。当たり前だろ?」
「もう。スマホ持ってると顔がよく見えなくて嫌なのに。」
「直ぐ机に置くから。」

画面が乱れ、机の上に置かれたらしい。
スマホケースを衝立にしているようだ、ちょうどソファが映る。
撮り慣れているのだろう、ソファ全体がちゃんと収まり座っているのも映る。

カミュがそこに座るとイレブンが嬉しそうに隣に座る。
そしてチュっとイレブンからキスをして、甘えるように体を委ねる。
スマホはテレビに背を向けているから画面は映っていないが、音が入っている。
「記録的大雨…だって。何でこんなところでパーティしたんだろうね。」
「そりゃ参加者を振り落とす為だろうな。」
「何で?」
「可愛いお前見たさに気軽にホイホイ来られても困るってことだろ。」
「お父さんの誕生日だよ?」
「関係ねぇんだよ。むしろ、誕生日を祝うっていう大義名分があれば参加しやすいしな。お前だって別に嫌じゃねぇだろ?」
「なんで?」
イレブンを抱え込むようにしつつソファに転がれば、イレブンがカミュの上に横になる。
「何時もと違う場所でコウフン気味のくせに?」
「ち、ちがうよ!」
と抵抗しつつ、真下にある顔にキスをする。
「…黒いスーツカッコイイね。」
「そこか。」
「似合ってるよ?」
「お前は何着てても、いや、着てなくても可愛いからな。」
「やんッ」
胸のあたりを摩ると可愛い声が漏れた。
「黒スーツかっこよくて興奮したんだ?」
「そ、そういうのじゃないけど…でも、それでもいい。」
イレブンからチュッチュと可愛いキスをしてくる。
「…カミュ。」
痺れるほどの甘い声だ。
カミュは体を起こしてイレブンを見つめ合う。

「んっ」
息する暇もないような熱いキスをする。
唇の離れた頃にはイレブンはすでに出来上がっていて、カミュに抱き着いた。
「…どうした?」
「…今日は、だめ?」
「だめって言われても、手出しそうなくらい触りたいけど。」
「いいよ。いっぱい触って。」

カミュの手がイレブンのシャツの中へもぐっていく。
「ッあ…」
「手、冷たかったか?」
「熱い位だよ…んッ」
「立ってる。」
「やだ、そうやって、言われるの恥ずかしいから。」

シャツが少しめくれあがって、白い腹が見える。
イレブンは乳首を弄る手をシャツの上から抑え込もうとしているが、
素振りだけのようだ。
眉を潜ませながら可愛い声を漏らしている。

「あんまり可愛い声出されるとガマンできねぇからな?」
「ガマン、しなくていいから…。」
「それじゃ、後ろの用意もしねぇとな。アレある?」
「ッ…ちょっと待ってて。」

イレブンはそろりと立ち上がると画面から消えた。
そして何かを手にして戻ってくる。

「左手と右手、どっちがいい?」
カミュに問われ、イレブンは左手を選んだ。
「積極的だな。そんなにスーツ良かった?」
「…それだけじゃないけど…僕も少しお酒で酔ったのかも。」
「本当に酒にか?」
「わかんないけど…でも今日は…。」
「…まぁ、気が変わらねぇ内に、進めさせてもらうか。」

もう一度キスをしてから、カミュがイレブンのベルトの触れた。
手早くそれを外して、ズボンを下ろす。
長めのシャツでちょうど隠れてはいるが、白い太腿が眩しい。
イレブンが持ってきた何かを、左手に出すとカミュはそれをもってシャツの下へ向かわせる。
「あっ」
小さく声を漏らしたが、それはすぐに甘い声に変わった。
カミュの首に腕を回し、キスをせがむ。カミュはそれに応えてやりながら、右手は再び乳首を弄らんとシャツの下へもぐって行った。

胸と、そして秘部とを同時に弄られで、イレブンの舌は淫らになってくる。
合間の呼吸はもはや嬌声そのもので、男を誘う。

「カミュも…。」
「ぶっちゃけ準備要らねぇくらいになってるんだけど?」
「みせて。」

イレブンの手がベルトに触れる。
「くちで、するから。」







動画を止められた。

「おい。」
「入ってただろ?音声。」
「…何の。」
「ニュースだろ。」
「…ああ。」
「聞いてなかったのかよ。」
「いやもう、なぁ?」

グレイグがホメロスに同意を求める。真顔で男は回答する。

「ああ。まるで集中していた。ニュースの音声を聞く余裕は一切なかった。」
「もう一度…というか、もっと先をだな。」
「それは断る。」

護衛は無情にも言い放つ。

「寸止めにも程があるぞ…!ここからが前戯じゃないか!」
「あんな可愛いものをお前らに見せられるかってんだよ。」
「王子の口淫…。それは凄まじいんだろうな。」
「いや、正直下手なんだけど、頑張ってる感じがやばい。っていうか、今日のニュースの時間、俺達が部屋で何してたかわかっただろ?」

確かにあのニュースは自分たちも見ていたものだろう。
だが。
「犯行時間はこれより後かもしれない。」
「そうだな。」
「…おっさんら、露骨すぎるぜ?」
「いや、これは大事なことだ。犯行時間のアリバイとして利用できれば王子への嫌疑は一切かからなくなる。」
「そうだな。音声も画質も十分だし、この短い時間で合成出来たとも思えんからな。」

「しょうがねぇな。前戯までだからな。」

そう言って護衛が再生ボタンを押そうとしたところ。

ドアがノックされた。

男どもは慌てて居住まいを直し、護衛がスマホを隠す。

ホメロスがドアを開けた。召使が立っている。
「ああ、皆様。アーウィン様がお目覚めになられまして…!!」

3名は急行した。
寝室ではアーウィンが申し訳なさそうにしていた。

「アーウィン様。」
「ああ、2人とも済まない。気を遣わせてしまって。」
そして彼は語った。
「いや、酒のツマミをと思って、自宅気分で厨房へ行こうとしたところ、足元を見ていなくて階段を転がってしまったんだ。」
「…。」
「いやぁ、我ながら器用に転がり落ちたものだ。ハハハ。」

どうやら無事だったらしい。ついでに何の事件性もないようだ。
だが家族からすれば心配したのに変わりはない。

「父上…多少は反省していただかないと。」
「そうですわ。それに。」

話の雲行きが怪しくなってきた。

「…料理長が食材が無くなると言っていたのはあなたのせいでしたのね。」
「すまん。」
「僕がとっておいたチーズも父上が?」
「すまん。」
「私のワインも…?」
「…すまん。いや、だがまだ飲み終わってないぞ。というか、自分が食べるものには名前を書けと何度言えば。」
「書きました!」
「書いておりましたが。」
「なんと…それはすまんな。」

家族喧嘩に発展した。
「ほら、2人とも、グレイグとホメロスの前でみっともないぞ。」
「みっともないのはあなたです!大体こんな酔って階段から落ちて怪我をして」
「父上がつまみ食いなどしなければこんな目に」
怒りは収まる様子がない。
アーウィンは刑事2人に目で詫びた。
2人も聞いては居ないだろうが挨拶をして部屋を出た。
ドアの前には護衛が立っている。

「事故ってことだよな?」
「…そうだな。」
「…ああ。」
つまりは、
「ってことは、その先は見せる必要もないってことで。」

護衛はニヤリと笑った。

刑事2人は無言のまま部屋を立ち去ることとなった。

「そうだ…夜食の差し入れの礼を言いそびれたな。」
「明日で良いだろう…。グレイグ、お前、明日王子と普通に話せる自信があるか?」
「ない。俺の目が泳いでいたとしても笑わうなよ。」
「…お互い様だな。お前はきっと口元に目が行く。」



ある雨の日の事件であった。



inserted by FC2 system