指輪
初出:別アカ/日付
カミュ主非エロ垢時代にワンライ参加で書いたやつ。タイトル覚えてないので今適当につけた。
立ち寄った酒場で、偶然目についた。
1階は想像しいが、2階は中々落ち着いていてレストランといった風だ。
そこで一人酒を煽っていたところ、
部屋の奥のテーブルで、一組のカップルが食事をしていたらしいが、
デザートまで食べ終わったあとで、
男が女に指輪を渡した。
女は泣きそうな顔を見せて、男は満足そうに彼女の左手に指輪をはめた。
小さな宝石が付いた指輪。
その後2人は幸せそうにしていて、
カミュは視線を外した。
とっている宿屋へ戻る。
仲間たちも各々自由時間から戻ってきているらしいが、
彼の姿が見当たらない。
「イレブンは?」
「イレブン様ですか?あら、先ほどまでいらしたのですが。」
「あいつ、まさか…。」
セーニャに、近くのキャンプへ行ってくると伝えてカミュは宿屋を出た。
あの鍛冶大好き勇者は、仲間を放置して鍛冶をしているのだろうと、
そう離れていないキャンプ地へと急いだ。
案の定、イレブンは、まるで店でも開いているかのように素材やら装備やらを広げて、
黙々とハンマーを振っていた。
一息つくのを待ってから声を掛ける。
「おいおい、勇者から職人に転職したのか?」
「わ、わぁカミュ、びっくりしたぁ。」
集中力の全てを鍛冶に使っているせいか、隙だらけだ。
「いくら女神像の近くだからってあんまし油断すんなよ。つーか、俺に声かけろよ。」
「だって君お酒飲みに行ってたし。」
「お前か鍛冶やるっつーんなら、酒買ってきてここで飲むから。」
「結局飲むんだ。僕、酔っ払いの相手は出来ないよ?」
「酔わねぇし。」
軽口を叩きながら近くに座り込む。
「何作ってんだ?」
「めざましリング」
お前が寝てもいくらでも起こしてやるのに、と思いつつ邪魔をしない様に見ていた。
最初はあんなに不器用だったのに、すっかり上達したものだ。
今じゃ、仲間の装備は全部イレブンの手作りだ。
カンカンといい音を響かせながら、職人は指輪を作り上げていく。
「指輪ね。」
先ほどの酒場での風景を思い出す。
今、カミュの指にも指輪がある。はやてのリング。
これはイレブンが作ってくれたものだ。
だが、同じものをマルティナもつけている。ちょっと前はベロニカもつけていた。
でも、男が女に送った指輪は、彼女の為だけのものだ。
同じ指輪なのに、こうも意味合いは違う。
お前の指には、どんな指輪が似合うだろう、とカミュは思い描く。
折角お前に渡すなら、世界で一番美しい石をはめよう。
この旅の中、あるいは先でそいつを見つけ出して、場合によっては盗み出して、
お前の指に飾るから。
「見てカミュ!指輪、+3出来た!」
「おう、流石職人。良い腕してんな。」
めざましリングを持ってこちらへやってくる。
「はい。」
「え?」
「これカミュ用。」
「マジか。」
「だって、君が寝ちゃったら起こす人が居ないじゃない。」
メンバーを一発で起こせるのは確かにカミュくらいだ。
「はやてのリングと交換でいいのか?」
「うん。」
指輪を外して、イレブンに渡す。
イレブンから預かり、めざましリングをはめる。
イレブンは、帰ってきたはやてのリングをはめようとしている。
「!?」
この風景はアレに似てる、とカミュははっとして、
イレブンから指輪をぶんどった。
「ちょ、ちょっとカミュ」
「俺がはめてやる。」
イレブンの、さっきまでハンマーを握っていた右手に指輪をはめてやった。
「急にどうしたの?」
「予行演習。」
「ん?」
「なんでもねぇよ。…他のやつにはさせんなよ、こういうこと。」
「…うん。」
イレブンは可愛らしく小首をかしげている。
その顔を、火照らせてやりたくなった。
「なあ、指輪は絶対に右手だけにしろよ?」
「なんで?」
イレブンの左手に手を添えて、その薬指をさする。
「この指は、俺が予約入れとくから。ぜってぇ指輪とかすんなよ。」
流石のイレブンも意味が分かったらしい。
願った通りに顔を真っ赤にして、
きっとさっきの予行演習の意味も理解したんだろう、
口をパクパクさせている。
「わかったか?」
「う、うん。」
「お前に一番似合う石見つけて、お前の為だけの指輪作るから。」
カミュが予約を入れた指をぎゅっと握って恥ずかしそうに俯いた。
「イレブン。」
声を掛けると顔が上がる。火照って、その美しい目を少し潤ませて、カミュを見る。
そっと肩を抱いて唇を重ねる。それから強く抱きしめた。
それからしばらく、キャンプの火にあたりながら、身を寄せ合っていた。
イレブンはカミュに甘えるように、肩に頭をもたげていて、
その左手をぎゅっと握りしめていた。
長居をすれば仲間たちが探しに来るだろう。
それまで、もう少しこうしていよう。